最近、日経新聞に、「ネット興亡記」という連載記事があり、過去20年ぐらいの国内ネット企業の栄枯盛衰を振り返ってる内容で、非常に面白い。
ただ、その中で、気になる記述があったので、ここでコメントしておこうと思った。
IIJ鈴木社長のオウム事件についての回顧
丁度、オウム真理教の松本被告の死刑執行のタイミングだったこともあり、IIJの鈴木社長の当時を振り返ったコメントが載っているのだが、その中で、警察幹部からIIJに対して通信のトラッキングの協力を要請する話が出てくる。
以下に、該当箇所を引用しておく。
サリン事件1年前、警視庁からの依頼
13人が亡くなり6300人以上が負傷した地下鉄サリン事件とオウム真理教――。インターネットイニシアティブ(IIJ)会長の鈴木幸一には、あの日の出来事を忘れることができない。20年以上もの間、胸につかえたまま口にできなかった苦い思いがあるからだ。
1995年3月20日、国民を震かんさせた地下鉄サリン事件。朝からテレビで繰り返し流される切羽詰まった映像を出張先で目の当たりにした鈴木は思わず自らに問うた。
「もしかしたら防げたんじゃないか……」
IIJは日本に初めてインターネットをもたらした、知る人ぞ知る存在だ。それが地下鉄サリン事件発生のちょうど1年前。IIJがネット接続事業を始めてしばらくたったある日、鈴木のもとを警視庁の幹部が訪れた。
「オウム真理教がIIJのネット回線を利用しているようです。トラッキングに協力してもらえないでしょうか」
地下鉄サリン事件の前から警察はオウムの動向に目を光らせていた。鈴木もオウムの存在はテレビの報道で知ってはいたが、すんなりと首を縦に振れない理由があった。
「技術的には可能です。でも、それは盗聴だから『通信の秘密』に抵触しますよね」
通信の秘密とは憲法が定めた国民の権利だ。国家権力であっても通信の中身を見ることは許されない。安易に検閲を認めれば、国家による人権侵害につながる恐れがあるからだ。たとえそれが怪しいカルト教団でも。鈴木は「それならまずは逮捕状を取って下さい」と条件をつけたが、目の前の警視庁幹部は黙り込んだ。
もしあの時、人権に目をつぶってでも警察に協力していたら尊い命を救えたんじゃないか――。ネットという新たな通信インフラを担う者としての責任を痛感せざるを得なかった。
2018/7/10 日本経済新聞電子版 「ネット興亡記『電話』の壁と倒産の危機」より
何故、警察はトラッキングを依頼したのか?
鈴木社長は、「通信の秘密」からこの要請を結果的に断るのだが、気になるのは、なぜ、法的に難しいことは分かり切っているはずの警察幹部が、お願いしに行ったのだろうという点。
容易に想像できるのは、当時の、NTT等の他通信会社は、このような要請を受け入れていたんだろうということ。
コンプライアンスの意識が高まってきたのは、せいぜいこの10~15年ぐらいであり、1995年当時はコンプライアンスという概念は希薄だったのだろうと想像に難くない。
NTTなんかは、依然古い体質が残っている印象が強いが、コンプライアンス意識が向上していることを願いたい。
コンプライアンス意識は脆く崩れやすい
全くオウムを擁護するつもりもないし、警察の努力も理解するものの、このような色々な場面で出てくる、法令違反の要請や誘惑が、結果として企業全体・社会全体のコンプライアンス意識を下げてしまうのだと思う。
IIJ鈴木社長も悩まれたかもしれないが、経営者として、譲れない一線だと思うし、正しい判断だったと評価したい。
企業経営の現場でも感じるが、グレーゾーンの許容、ちょっとぐらいなら大丈夫という意識は、結果として大きなコンプライアンス違反を許容する下地を作ることなると思っている。常に意識をして行動していきたい。
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