米国のVCであるSocial Capitalが、Social Capital Hedosophia HoldingsというエンティティのIPOを通じて$500Mの資金調達をするというニュースがあったのだが、日本では見かけない不思議なファイナンスストラクチャなので、ちょっと調べたことをまとめてみた。
Social Capital Hedosophia Holdings の$500M IPO
本IPOについては、この記事が詳しい。案件概要を引用すると、
- Social Capital Hedosophia Holdings has filed to raise $500 million in a blank check IPO.
- The firm intends to combine with an as-yet unidentified late stage technology company.
- Due to its larger size, Social Capital Hedosophia may provide a lower risk profile than smaller tech SPACs focused on earlier stage companies.
- I’ll provide an update as it moves closer to an IPO.
どうやら、blank check IPOという手法で、上場後に、まだ未定のレートステージのテクノロジー企業と合併するらしい。
Bloombergの記事では、こんなことも書いてあった。
シリコンバレーのベンチャーキャピタリストたちが、あるひとつの目的に焦点を絞った「上場ファンド」(publicly-traded fund)をつくろうとしている。
ひとつの目的とは、成熟したスタートアップが、新規株式公開(IPO)の場合に必要になる手続きを踏む必要なく、幅広い投資家から出資を受ける道を開くことだ。(中略)
特別目的買収会社(special purpose acquisition vehicle)と呼ばれるこのファンドは、持株会社の評価額を設定することで、投資対象となる非公開会社がIPOしなくても、投資家に株式を売買することができる。株価は市場の需要に応じて変動する。
原文英語はこちら
ますます、意味が分からん。ということで調べてみた。
SPACとBlank Check Company
野村資本市場研究所のレポートが良くまとまっていたので、こちらをご紹介。
- SPAC(Special Purpose Acquisition Company:特別買収目的会社)とは、それ自体は特定の事業を持たずに、主に未公開会社・事業を買収することのみを目的とした投資ビークルで、IPOによって投資資金を株式市場から調達する。
- 過去数年、①多くの時間やコストのかかる伝統的なIPOを嫌気する上場予備軍が増えていること、②PEファンドの代替商品として投資家の関心が高まっていること、③著名な経営者や大手投資銀行の参加により信用度が高まってきていることなどを背景に、SPACの活用が急激に拡大している
- 投資家にとっては、通常のPE投資よりも短期間で投資回収の機会を得られるメリットがあるが、SPAC設立者の能力やスキルに関する評判しか投資判断材料がない、SPACが買収するのは通常一社であるためリスク分散がなされないなどのデメリットがある
要するに裏口上場!?
要するに、買収用の特別目的会社(ペーパーカンパニー)を設立し、IPOさせ、それを非上場会社と合併させることで、IPOの煩雑な手続きを乗り越えましょう。というものらしい。
そして、PEなどでは結構前から行われている資金調達・上場手法のようだ。
これって、ただの、裏口上場(Back Door Listing)じゃん!と思われるのだが、大手のVCやPEがバンバンやっているアメリカの懐の広さというか、多様性というか、ダイナミクスには驚かされる。
何も決まっていない状態で、上場してお金を集めるので、Blank Check Company(白地小切手会社)と言われるようだ。
ただ、発行体にとってのメリットだけではなく、投資家にも一定のメリットがあるようだ。
投資家にとってのメリット・デメリット
メリット
-
通常のPE投資よりも短期間で投資回収の機会が得られる点: PEファンドに投資すると最終的な投資回収までに5年から10年はかかるが、SPAC投資においては、市場での売却によって迅速なキャッシュアウトが可能
-
取引所の上場審査を経ていること: SPAC資産の信託、買収期限、買収承認プロセスなどいくつかの投資家保護のための措置がビルトインされていることから、PEファンドよりも透明性が高い
-
個人投資家を含めたあらゆる投資家がPE投資の機会を得られる点: 個人投資家や小規模な機関投資家がPEファンドに投資する機会は限られているが、SPACは上場株式なので誰でも投資することが出来る
デメリット
- IPOの時点では、SPACは事業を持たず、また、買収先も決まっていないため、投資に際してSPAC設立者の能力やスキルに関する評判に賭けるしかない点
- PEファンドが複数の銘柄に投資してリスク分散を行うのに対して、SPACが買収するのは通常一つの会社に限られるため、リスクが分散されない点
日本での応用は可能か?
投資家保護の観点、金融リテラシーの低さ、個人投資家中心の市場、信任の厚いVCやPEの不在、未成熟なIPO市場と投資家層などの観点から、日本での実現はハードルが高いと考えられる。
ただ、例えば、東証が東京プロマーケットのテコ入れの観点から、上場基準や上場審査をSPACに限って緩和するのであれば、制度上は実行可能となるであろう。
適格機関投資家のみを対象とするのであれば、投資家保護の論点は軽くなるであろう。
ただ、一定額以上の資金調達が見込めるのか。。。そこが課題だと思われる。
国内機関投資家だけでは資金が集まらないだろうし、外国人投資家は流動性の低い東京プロマーケットにわざわざ参加するのか。。
日本の株式市場はまだまだ開かれていく必要がある。
コメント