過剰なブームになっている感のあるICO。中国当局の規制なども話題となり、否定的な意見も多く聞こえるようになってきました。金融機関出身者というたちばから、ICOに関して功罪をまとめてみました。
ICOのメリット
1.多額の資金を幅広い投資家から調達することが可能
グローバルに広がる投資家から資金を調達することが可能であり、足元のブームを受け、VCやクラウドファンディング等での調達に比して多額の資金を調達することが可能となっている。
2.スピーディな資金調達が可能
ある程度の知識を有する技術者がいれば、発行手続き自体は短期間で簡便に行うことが可能。上場準備に年単位の期間とコストを要するIPOと比べると非常にスピーディーに実施可能。
また、whitepaperと言われる事業計画書を用意するケースが一般的だが、VCや銀行の審査のような精緻な内容を要求されることはなく、事業のトラックレコードがなくても調達が可能。
3.株式の希薄化が発生しない
株ではなく「トークン」を発行し販売する位置づけなので、第三者割当増資のように、議決権(経営権)の一部を他者に渡す必要はなく、経営者は経営権を保持することが可能。
VCでは、資金調達する代わりに経営への口出しを許すことになり、経営者の意図する経営が出来なくなる場合がある。
4.発行したトークンに流動性がある
発行したトークンは世界中にある仮想通貨の取引所に上場され、売買の対象となる。そのため、非上場株への投資と異なり、投資家にとって流動性リスクは少ない。
ICOの問題点
ICOの問題点は、メリットの裏返しであるが、以下のようなものがある
1.コーポレート・ガバナンスの欠如
一般的なICOでは、発行体のサービス等を対価にしたものが多くみられるが、そのサービスの内容・継続性等についての担保はほとんどなされておらず、またトークン保有者の発行体に対する権利も極めて脆弱である。
株式出資であれば、株主として経営に介入することも可能であり、経営者は株主を意識した経営を行うインセンティブが働くが、トークン発行の場合、そのような仕組みが存在せず、最悪の場合、期待されていたサービスを行わない場合もあり得る。
2.価値算定の困難性
暗号通貨全般に言えることだが、株式のように企業価値に紐づいたものでもない「トークン」の場合、理論的な価値を算定するのが困難・不可能な場合が多い。その場合、発行額や、市場価格は単に需給によって成り立っているものであり、非常に脆弱な市場形成となっている。
3.法規制の適用の困難性
発行体も投資家もインターネットに接続されていれば発行・投資が可能であるため、特定の法規制の枠組みでとらえきれない事象が多々存在する。特に、ブロックチェーンそのものは、保有主体が存在しない状況に位置付けられているため、何らかの法的な問題が発生した場合、解決が困難な場合が存在する。
また、暗号通貨・ICO自体概念が新しく、きちんとした法的な枠組みが整っていない。税務も含め、今後の枠組みが流動的
4.投資家保護の欠如
多数の投資家に対して、簡易な事業計画で資金調達が可能であり、投資判断を行うための十分な開示がないケースが殆どである。このため、誤解を招く販売・募集行為が行われたり、詐欺行為の下地となっている。
5.マネーロンダリングの温床
ICOのみならず、暗号通貨では、匿名での資金決済が可能となっており、反社会的勢力やテロ組織の資金調達手段であったり、犯罪行為の資金決済手段、資金洗浄手段としても用いられやすい構造となっている。
6.トークンの永続性と事業の継続性の不一致
一般的に、トークン発行時に想定していたトークンの対価とされるサービスの継続には期限がある一方、理論上、トークンは永久に存在し続けることになる。一定の社会的信用(レピュテーション)を気にする企業の場合、トークン保有者の存在によりかえってサービスの終了が出来なくなる可能性がある(もしくは、トークンを全て買い上げることになる)。
暗号通貨・ICOの規制の在り方
個人的には、現状のICOや暗号通貨のブームは長く続かないものだと考えている。今後、市場の大きな下落や犯罪行為の摘発に伴い、一定の規制がなされるであろう。
ICO規制の在り方
安易にICOを規制するだけでは、発行体が規制の緩い国に移るだけであり、新規事業の海外流出、国際競争条件の悪化、起業家精神の減退を招くことになってしまう。
一定の要件を満たしたICOについては税務上の優遇措置を与えるなどの、国内でICOを行う場合のメリットを残しつつ、ICOの届け出、簡易な情報開示義務の付与、一定の本人確認プロセスの義務付けなどを行うことが考えられる。
ICO規制強化とともに現行の金融規制の緩和を
スタートアップにとって受け入れやすい資金調達として、ICOだけが選択肢にある状況を回避する意味でも、既存の金融規制緩和の検討が必要と考える
現行、株式等で資金調達を行う場合の規制は非常に厳しく、「1億円以上、50人以上」からの資金調達の場合、有価証券の公募として有価証券届出書、目論見書の発行が求められ、継続開示も求められる。
発行開示・継続開示は投資家保護の観点からも重要な手続きではあるが、スタートアップにはハードルが高い。かといって1億円未満では何もできない。
また、開示内容についても、形式化・形骸化が進んでいる印象を受ける。
金融規制緩和案
以下の規制緩和を提言したい
- 一定の要件を満たしたスタートアップについて、金融規制の減免を用意
- 公募のバーを10億円に引き上げ
- 開示・届出内容の簡素化
- 一定の要件を満たした投資家が参加可能な取引所への上場
金商法の改正で始まった「株式型クラウドファンディング」は、依然制約が多く、スタートアップが利用するには物足りない。
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