書評「中央銀行が終わる日」(岩村充)

やや過激なタイトルだが、現行の金融政策の限界を指摘するとともに、新しい金融時代に向けた議論を展開する良書。著者の岩村充氏は、日銀出身で早稲田大学ビジネススクールの教授。

 

以下では、本書の概要と僕が感じたところをまとめてみたい。

 

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本書の概要

本書は、大きく、「日本の金融政策の現状」、「ビットコインの課題点」、「資本市場と中央銀行の将来」について述べている。

 

日本の金融政策の状況

著者は、日銀による量的緩和・異次元緩和について、流動性の罠からの脱却を目指したものだったが、効果はなかったと論じる。結局のところ、「時間軸政策」と言っても、国民が将来の景気回復に確信が持てる状況でないと効果を発揮しないという。

p.37:「金融政策は魔法の杖ではない」。金融緩和とは、しょせんは将来の豊かさの前借であり、無から有を生み出すものではない

また、著者は行動経済学でいう「心のバイアス」の問題も懸念している。「豊かになる方向」を展望しているときは、人々はリスク回避的になるが、「貧しくなる方向」を展望している場合は、リスク選考的になるというもの。

p.43: 国の将来について国民の多くが手詰まり感を感じているとき、このままではジリ貧だという恐怖を感じているときは、こうした「心のバイアス」が共有され、後から考えれば不可解なほどに無謀な決定をが熱狂的に支持される

このような世の中の動きはBrexit、トランプ旋風もそうだし、国内でも世論の二極化などに強く表れている気がする。

 

さらに著者は、このように閉塞感が強まる中、人々は不動産や金といった他資産へ資金を逃避させており、足許の価格上昇は(将来価値の上昇期待から投資してきた)過去のバブルとは少し様相が異なると指摘する。そして、ビットコインもその一つの選択肢になっているのだと述べる。

この点は、半分は納得するものの、半分は誤りのような気がする。不動産価格の高騰は他に妥当な投資対象がない為に、おそるおそる皆継続しているという印象が強いし、ビットコインについては、取引参加者は逃避資金ではなく、投機資金が中心だと考えられるからである。

 

ビットコインの問題点

著者は、暗号通貨の可能性をのべつつも、ビットコインには、いくつか課題があると指摘する。

スケーラビリティの問題
  • 1秒間に7件以上の取引が継続すると、ブロックサイズが超過してしまう。
マイニング事業者による利用者の権利を侵す可能性
  • マイニング報酬が4年毎に半減してしまうため、マイニング報酬より利用者の権利侵害の誘因が強化される可能性
  • マイニング事業者が、自己が利害を有するアルトコインを持ち、ビットコインの価値を落として、そちらに誘導する誘因の存在
ビットコインの価値が不安定さ
  • 金等の他の資産とことなり供給曲線が垂直なので、価格のボラが必然的に高くなり、金融取引の対象とはなり得ない

3点目については、2017年6月12日の僕の記事「ビットコイン相場はバブルか?」と同じ考え。

 

なお著者は、価格を安定させるメカニズムとして、マイニングタイミグを10分という時間ではなく、ビットコイン価格を一定にするように、生成速度を調整する仕組みを提案している。これにより、供給量が調整され、価格は安定するだろうというもの。

面白いが、実効性についてはやや疑問。これはつまり、「ドルペグ」にしてしまうということだろうし、また、当初設定したペグ価格をビットコイン市場価格が大幅に上回った場合、決済はずーっとされないことになってしまうのではないだろうか。

 

資本市場と中央銀行制度の将来

著者は、世界経済の成長は、19世紀の私有財産制の確立と資本市場の成立により始まったと指摘し、そのタイミングと軌を一つにして、中央銀行制度も始まったと述べる。しかし、1990年以降、人口構成も変化し、継続的なGDP成長が見込みにくくなっている現状は、中央銀行制度としては初めてのチャレンジなのかもしれないと指摘する。

資本市場はグローバル化し、国家間での資本の誘致競争が起こり、法人税の引き下げ競争や株主主権の整備が行われてきた。一方、労働市場は、言語や文化の観点から移動に制約があり、また生産拠点の海外移転により賃金は抑制的になる。このため1990年以降、所得格差が広がってきたと述べる。

しかも、この流れは止められないという。

この点はハッとさせられた部分。なんとなく期待しているどこかで再び経済成長の局面が訪れるハズというのは幻想で、そういう世界は過去のものとなってしまったんだと。

 

金融政策も手詰まりとなる今後も、著者は中央銀行の役割は存在すると言う。より利便性・決済性を高くした「デジタル銀行券」を発行し、中央銀行はその価値の安定を図る主体としてあるべきだという。

自己利益という誘因を持たない、本来の「物価の番人」として、デジタル銀行券を公正に管理することを目的とした主体が必要だという。

これは、結構いいアイデアだろうし、こうなっていくような気がします。分散型ではなく中央集権型の暗号通貨。おそらくコストも低く運営でき、通貨の安定性も高くなると。

 

子供の将来について思うこと

かならずしも、子供だけではなく、自分自身もそうだが、著者の述べるようなパラダイムシフトが起こっているということであれば、教育や仕事という観点では、以下のようなポイントが重要になるのだと思う

  • グローバルで働ける人材となること(英語・コミュニケーション力)
  • 資本集約的な業種に就く、若しくは、経営者・起業家となること
  • 限られた成長分野を見つけ、その分野で第一人者になる

頑張らねば

 

関連書籍

本書でも、ちょくちょく参照されているのが、著者の前著である「貨幣進化論」。僕もまだ読んでいないが、これも面白そうで気になっている。

 

まとめ

金融政策、中央銀行の歴史、経済の状況、仮想通貨のメリット・デメリット、貨幣の将来といった、多岐に及ぶ論点を面白く解説している。また、賛否は別として、ビットコインの改良案や、デジタル銀行券の提唱など、面白いアイデアもあって読みながらいろいろ考えさせられる内容となっている。

 

残念なのは、著者の知見を披露したいという気持ちが強く、文章がやや冗長で、話題が飛びすぎる点。ビットコインの基礎的な解説なども、多くの紙面を割いており、冗長性をもたらしたように思われる。

 

と、ここまで買いていたら、本日、同じような内容でロイターから記事が出ていたので、参考にしてもらいたい。

 

 

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