今、話題になっている経済産業省の若手による提言「不安な個人、立ちすくむ国家~モデル無き時代をどう前向きに生き抜くか~」を読んでみました。
本資料は、経済産業省の20代・30代の若手官僚30名によって纏められた65ページの大作です。日本の将来を憂うエリート官僚ということで、このような立場の人達にしては、かなり踏み込んだ(ある意味過激な)分析・提言だと思います。
子供を持つ親として、日本の将来については漠然とした不安を感じることもあり、掲げている問題意識や危機感は非常に共感するものがありました。特に、以下のフレーズは心に刺さりました。
変化が激しく、特定の「成功モデル」もない現在。
今の子供たちの約6割が、大学卒業時には今存在していない仕事に就くと言われている。
20年後には多くの大企業も存在しなくなっている可能性がある。
子どもから大人まで、自由を行使し変化を乗り越える力を身につけることで、誰もが思いきった挑戦ができ、不確実であっても明るい未来が作り出せる。
一方で、全般的に議論が粗い印象を感じたので、自分なり受けた印象・考えをまとめてみました。
本提言の骨子
私の理解は、ざっくり以下の通り
問題意識の背景
- 日本の社会構造は大きく変化しているが、社会制度は1950年代の「昭和標準モデル」のまま
- より自由になったはずだが、「権威」「お上」に頼っていればいいという時代じゃなくなり、人々の不安が増大
結果、以下のような諸問題が発生
高齢者に対する過剰な保護
- TVばかり見ている。生きがいを失っている人が多い
- 本人も望まぬ医療を受け、費用ばっかり掛かっている
子供の貧困の放置
- 特に、母子家庭は貧困は放置されている。貧困のスパイラルが発生している
- 国際的にも、子供への投資が少ない
若者は社会貢献の場がない
- 社会貢献したいけど、社会貢献の場がない
- 結果、社会貢献を諦め、個人主義に走っている
インターネットでの情報操作も問題
- フェイクニュース問題など、情報に踊らされている
- 個人の選択の自由が侵害されている恐れ
具体的な提言
高齢者にも働いてもらおう
- 高齢者は一律「弱者」とされているが、働ける人も多い
- 働いてもらえば、生きがいも生まれるし、財源も浮く
子供への投資を最優先に据えよう
- 子供を大人が支える構造という発想転換を
- 教育の質を高め、不確実でも明るい未来を切り開ける子供たちを育てる
公じゃなく、意欲ある個人に任せよう
- やりがいを感じられるだろうし、
- よりきめ細やかなサービスが実現できるはず
本提言を読んでの感想
問題意識や危機感は素晴らしい
このグループの提示する問題意識や危機感は非常に共感します。
「自由の中にも秩序があり、 個人が安心して挑戦できる新たな社会システム」 を創るための努力をはじめなければならないのではないか。
人類がこれまで経験したことのない変化に直面し、 個人の生き方や価値観も 急速に変化しつつあるにもかかわらず、 日本の社会システムはちっとも変化できていない。
このことが人々の焦り、いら立ち、不安に 拍車をかけているのではないか。
なぜ日本は、大きな発想の転換や思い切った選択が できないままなのだろうか。
とか、
2025年には、団塊の世代の大半が75歳を超えている。
それまでに高齢者が支えられる側から支える側へと転換するような社会を作り上げる必要がある。
そこから逆算すると、この数年が勝負。
かつて、少子化を止めるためには、団塊ジュニアを対象に効果的な少子化対策を行う必要があったが、今や彼らはすでに40歳を超えており、対策が後手に回りつつある。
今回、高齢者が社会を支える側に回れるかは、日本が少子高齢化を克服できるかの最後のチャンス。
2度目の見逃し三振はもう許されない。
というところは、まさしく、その通り!!という感じです。
結論に当たる提言部分が残念
一方、非常に大きな問題意識を提示しているのに対し、結論が、かなり限定的、かつ具体性が欠ける印象を抱きました。
大枠のコンセプト・ビジョンの欠如
このような問題意識を掲げるからには、「新しい社会設計の在り方」といった大枠のコンセプトがまずあるべきだと思います。
一応「個人が安心して 思い切った 選択ができる 『秩序ある自由』」という表現がありますが、極めて抽象的です。
- 個人の安心とはなにか?
- 思い切った選択とは?
- 秩序とは?
- 自由とは?
そこが、ぼやけてしまっているためか、「高齢者も働く」「子供への投資」「官から民へ」という個別の議論が、なぜ、「個人が安心して思い切った選択ができる『秩序ある自由』」を構築することになるのか、よくわかりません。
ややロジックがわからない箇所も
「インターネットにより、個人の判断や行動が誰かに操作されている可能性」については、なぜ、ここにこれが出てきたのか?あえて出す必要があったのか、いまいちピンときません。
「最近、流行りの話題だから載せてしまおう。」とか、「私、結構調べたのよ。どこかに入れてよ。」という議論があったのかな‥‥。
個別の提言の具体的な実効性の欠如
もう一つは、結論としての「高齢者も働く」「子供への投資」「官から民へ」という論点は、非常に正論なのですが、過去から言われている議論の焼き直しに過ぎない印象を受けます。
「正論だし、そうするべきだと言われ続けてきたけど、でもこれまでも何も進まなかったことだよね…。」と思ってしまいます。もっと切り込んで、「どうすれば、それが推進できるのか?」そういった提言がほしかったです。
- 年金もらってテレビ見ているおじいちゃんに、働いてもらうには、どういう制度設計がありうるのか?
- 医師会の権益もある中、医療費削減を進めるには、どのような制度が必要なのか?
- 子供への投資を増やすとして、財源の確保や、投資のウェイトについてはどうすべきなのか?
- 意欲ある個人・民間に「公」の仕事をお願いする。それは、どういう風に進めるの?
全般的に、インセンティブの付与、報酬・対価の取り扱いの議論がすっぽり抜けている印象があります。
理想論ではあるのですが、必ずしも「やりがいがあれば、報酬なくても働くぜ」「子供への財源のため、権益放棄するぜ!」という人ばかりではないので、根本的な枠組みの再設計が必要なのだと思います。
ただ、批評するのは簡単なのですが、実際これをまとめるのも、大変な議論があったのだと思います。
今の段階での粗削りな提言なので、具体的な検討はこれからということかもしれません。ぜひ、このまま放置せず、ぜひ提言の実施に向けてアクションに移してもらいたいと思います。
私が考えるコンセプト(案)と提言(案)
批評ばかりでも何なので、私の考えるコンセプト(案)なり政策(案)をお示ししたいと思います。
社会制度のコンセプト
個人が安心して思い切った選択ができる『秩序ある自由』←大枠は同じとします
- チャレンジの促進
- 年齢や所属による、税務上、社会保障上の有利不利がない制度
- 高齢者層に遍在する資産を、チャレンジや教育の投資に振り向けさせる政策
- 将来への投資(育児・教育)
- 子育てに伴う親への負担を全廃
- 多様な教育スタイル・進路の選択肢
- セーフティネット
- 大人や高齢者の教育機会・費用の援助
具体的な政策提言(案)
具体的には、以下のような政策があると、良いのではと思ったりもします
1.チャレンジの促進
残存寿命に比例した選挙権の配分
制度改革が進まない大きな要因は、選挙制度にあると思います。あと10年・20年逃げ切れば良い高齢者は、30年、50年といった長期的な政策を支持せず、割を食うのが若年層となります。
ですので、年齢でウェイト付けした選挙権の配分が一案と思います。(極端には、85歳を平均寿命として、80歳の人は5票分、20歳の人は65票分の投票権を持つようなイメージ)
若しくは、少なくとも未成年を有する親については、保護者が未成年分の投票権を有する仕組みが必要かと思われます(但し、この選挙法改正自体が高齢者の反対を受けるため、成立が困難となる点には留意が必要です)
定年退職制度の廃止
そもそも、能力の有無にかかわらず、年齢によって退職時期を決める制度がナンセンスです。
年齢による賃金や就職における差別の廃止を明文化し、純粋に能力で判断するような制度を設けるべきです。
ただし、一方で、若くても能力の劣る人は、低賃金であったり、退職させられることになるかもしれません。
高齢者による教育投資やベンチャー投資に対する税制優遇
日本の金融資産の6割超を高齢者が保有していますが、原則それらのお金はリスク投資、成長投資に向かうことはなく、金庫に眠るか銀行に預けてある状態です。
それらの金融資産を、教育投資やベンチャー投資に振り向けることができれば、もう少し日本は明るくなるかもしれません。
一定の投資基準を満たす場合、相続税における優遇措置を設けるなどの税務上の検討があってもいいかと思います。
2.将来への投資(育児・教育)
育児・教育に掛かる負担は原則全額補助
現在の制度では、子供が増えれば増えるほど、家計や時間的な面で負担が増大することになっています。そのような制度下では、女性の社会進出も、子供を増やすのも、非常に代償が大きく望まれないものになってしまっています。
母子家庭でも、一般家庭でも安心して生活し、子供を産み育てる社会を構築するには、育児・教育に掛かる金銭的・時間的負担を、原則全額補助することも検討すべきかと思います。
具体的には、通学、一定の習い事、被服費、食費、医療費、幼稚園・保育園、ベビーシッター代等。
全入を前提とした保育園政策
保育園に入れない待機児童が都内では多く見られます。就職が決まっていないと保育園の入園を申請できず、でも結果として落選してしまうというリスクもあります。
そんな状況では、女性の社会進出も絵に描いた餅ですし、働きたい女性は子供を産まないということになってします。
保育園は、全入を前提とした政策が必要と考えます
多様な教育スタイル・進路の選択肢
基本的に、今までは「小学校・中学校・高校・大学もしくは専門学校」といった一本道の進路がメインでした。選択肢としても、工業高校や商業高校を選ぶ、もしくは大学で学部を選択するというレベルだと思います。
「飛び級」を容認することも必要かと思います。習熟度に応じて科目ごとに飛び級や落第があることで、横並びで進学するのではなく、得意な分野を伸ばし、不得意をケアできるようになるかと思います。
理科が得意な小学生は、理科だけは高校で授業を受けつつ、国語は小学校で学ぶなどの状況があっても良いかと思います。
また、コンセプトの異なる小学校や中学校もあってもいいかと思います。
介護関係、保育関係者の地位の向上
介護施設関係者や保育士さんは、大変な職業の割には、賃金も低く慢性的に人員不足に陥っています。人員不足にもかかわらず、賃金が低いままというのは市場原理が作用していない印象です。
介護関係、保育関係への投資を増やし、地位向上を図ることも重要かと思います。
3.セーフティネット
大人や高齢者に対する、教育機会の提供、費用の援助
失業者や転職を希望する者には、改めて教育を受ける機会を提供し、またそれにかかる費用を援助する仕組みが必要です
単に、援助や生活保障をし続けるのではなく、学習効果の進捗・成果をモニタリングできる仕組みも必要になります
高齢者による高齢者を活用する事業の創出
働きたい、まだまだ働けるという高齢者が運営する公的な事業主体があっても良いかと思います。
年金等で一定のセーフティネットがあるため、自主財源で、自分たちの提供するサービスを自ら創出することができると、やりがいにもつながるかと思います
まとめ
日々子育てをしながら感じることを思いつくままに列挙してしまいました。
子供たちが、大きく変わる時代の中で、楽しく、強く生きていけるように育てるにはどうすればいいのだろうと日々考えています。
そのためには、徐々に地盤沈下しつつある日本を底上げさせたいと思いますし、そのために何かできないかと思っています。
本ペーパーをまとめた経済産業省の若手メンバーの感じる危機感は非常に共感します。業務外でこのような資料をまとめた若手の官僚たちには、敬服しますし、ぜひその気持ちを忘れず、日本をよりよくしていくために尽力してもらえればと思っています。
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