北朝鮮を巡る各国の思惑

国連安保理で、北朝鮮に対する新たな制裁決議が採択された。原油・石油精製品の輸出3割減、繊維製品の禁輸、北朝鮮労働者への就労許可の禁止などと、従前より厳しい内容となっています。

 

 

当初の米国案と、採択された決議内容の差や、最近の各国首脳の発言を振り返ってみると、報道されていない、米・中・露を中心とする各国の利害や思惑を巡る激しい駆け引きの内容がなんとなく浮かび上がってきます。これらの背景・裏事情を想像しながらニュースを読むと面白いです。

 

想定される各国の利害と思惑を以下にまとめてみました。

 

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北朝鮮の思惑

北朝鮮の基本的な要求・目標は「国家の安全保障・体制維持」「制裁解除による経済回復」の2つだと考えられ、戦争行為は避けたいというスタンスだと推測します。

 

国家の安全保障

金正恩の側近達の粛清や米国人捕虜の存在などの報道を見る限り、米国によるスパイ活動や中国による体制転換工作が多々発生しているのだと想定されます。(張成沢は胡錦涛に金正男政権の樹立を打診したことが発覚して処刑されたとの報道もあります。)

核兵器やICBMを配備することで、このような工作活動を止めさせる抑止力を確保したいというのが本音なのではないでしょうか。

 

制裁解除による経済回復

経済制裁の影響や、経済政策の失敗等により、経済状況は悪化していると想像され、経済制裁の解除、貿易の拡大などでの回復を図りたいと考えていることでしょう。 ただし、現状では米国に敵対している状況では制裁緩和に至っても、貿易相手国が限られてしまい「ならず者国家」達との違法貿易に携わらずを得ない状況が続くでしょう。

このことからも、米国や中国から、国家の安全保障・体制維持の確証を得たいのだと想像されます。

 

今後のアクションプラン

北朝鮮は、自滅につながると分かっているので、自ら戦端を開くことはないでしょう。(もちろん、十分警戒は必要ですが)。 太平洋戦争前の日本よりも一発逆転を期待する余地はなさそうです。

ただ、このままでは経済的に破綻し、自壊してしまう可能性もあります。となると、残された唯一の道は、早期にICBMと核弾頭を完成させ、武器輸出や核技術の不拡散に合意する代わりに、核保有国として認めてもらい、経済制裁の解除を勝ち取るというシナリオでしょうか。

 

対韓国政策は、一定の経済交流による経済的なメリットを欲する一方、過度な融和政策は体制崩壊につながるとの危惧がありそうです。また、朝鮮半島統一は経済的にも完全に韓国に飲まれてしまうので、当面は選択肢としては取りづらいでしょう。

気になる、対日政策ですが、当面は経済的にも軍事的にも重要度が低く、あまり関心がないと思われます。

 

米国の思惑

米国の動機は、「東アジアにおける中国の影響力への牽制」、「米国に敵対する勢力への武器や核技術の移転の防止」だと思われます。

核弾頭の実用化には時間と費用と多数の実験が必要となるため、その前に対処する手法は多数あるでしょう。 現時点では、米国が主張する米国本土への核攻撃のリスクより、上記2つの動機が大きいような気がします。

 

東アジアにおける中国の影響力への牽制

北朝鮮に親中国家が成立した場合、周辺国への中国の影響力の拡大、中国海軍の日本海への進出、などが懸念されます。

そのような情勢になると、米国による安全保障体制にいる韓国、フィリピン、台湾、場合によっては日本といった同盟国への米国の影響力の低下をもたらすことになり、米国にとっての最大の懸念事項だと思われます。

 

武器や核技術の移転防止

北朝鮮の外貨獲得手段の一部、もしくは大きな部分は、テロ組織等への武器や軍事技術の供与によって賄われているのだと推定されます。 組織的な開発・生産体制を持たないこれらテロ組織にとって、国家的な規模で開発・生産を行える北朝鮮は非常に有難い存在です。逆に言えば、これらのテロ組織から目の敵にされている米国に取って、生産拠点を潰さない限りテロリスクはなくならないでしょう。

 

今後のアクションプラン

このため、米国にとっては、基本的に北朝鮮の体制を変更させるのが望ましいのですが、米国から先制攻撃を行うのは得策ではなく、北朝鮮が動くまで挑発し続けるでしょう。

 

米国から仕掛けた場合、逆効果となるので、行わないでしょう。

  • 同盟国である韓国での被害が甚大になり、その責任を米国は負いきれない。(韓国からの承諾も得られない)
  • 国内世論としても、資源もなにもない国家のために積極的に犠牲を払うのは受け入れられない。
  • 外交的にも不利な立場に陥り、中国やロシアによる北朝鮮への支援の口実を与えてしまう

 

なので、北朝鮮を追い込んで、口火を切らせようとするでしょう。

  • 反撃の正当性を、対外的・対内的に主張することができる。
  • 韓国内で被害が出ても、北朝鮮の責に帰すことが可能となる。
  • 中国やロシアの介入を排除することができる

 

中国の思惑

中国の主な行動原理は、「東アジアにおけるプレゼンスの確立」でしょう。

基本的に、北朝鮮は中国にとってお荷物でしかなく、お行儀よく静かにしていて貰えればそれでいいのだと思われます。逆に米国の影響力が強まることが、中国には悪夢の事態でしょう。

 

東アジアにおけるプレゼンスの確立

現在の米朝関係は、中国にとっても悩ましい状況であり、間違っても北朝鮮に親米政権が成立することは避けたいはずです。このため、米国主導による制裁、軍事アクションは避けたいと考えられます。 

逆に北朝鮮に親中政権を成立させることができれば、日本海へのアクセス、韓国や台湾への影響力の強化などのメリットを描いてる可能性もあり得ます。

 

今後のアクションプラン

中国は、難民流入が社会問題になり得るので、開戦は避けたいのだと思われます。

このため、中国の政策オプションの優先順位としては、

現政権のまま、おとなしくなってもらう > 工作活動を通じて新中国政権を樹立 > 経済的に瓦解 > 米国からの軍事アクション

となるでしょうし、最悪なのは、北朝鮮が我慢できずに軍事アクションを起こした場合です。

米国から仕掛ければ、中国は北朝鮮支援の大義名分ができるので、北朝鮮政策を主導的に行えるようになります。一方、北朝鮮が仕掛けてしまうと、主導権を米国に奪われてしまうことになるでしょう。

 

韓国の思惑

韓国は、一番の当事者であるはずですが、極力何も起きないで欲しいと願っていると思われます。

  • 戦争になると、ソウルを始め多数の犠牲者が出ますし、国土が焦土化してしまうので、戦争は避けたい。
  • 南北の統一も、経済的にもマイナスが大きいので、やりたくはない。
  • 北朝鮮が経済的に瓦解するのも、難民問題が発生するのでやめてもらいたい。
  • 米国と中国の対立も、両国の影響力の狭間で困ってしまう。

 

今後のアクションプラン

戦争のリスクがまだないと考えている間は、中国の反感を買わない程度に、米国に追従し、北朝鮮を非難する立場をとるでしょう。

但し、「戦争を避けたい」、「黙っておとなしくしておいて欲しい」というのは、中国と同じスタンスなので、中国のアクションを支持する声が高まる可能性があると考えます。

 

日本の思惑

日本は、軍事的・国際政治的な影響力より、寧ろ「対内政策(景気刺激策・憲法改正議論)として利用」したいという動機がありえます。

その背景には、北朝鮮と地理的に近いものの、核弾頭がまだ実用化されておらず、ICBMの命中精度も高くない状況を考えれば、仮に戦争状態に至ったとしても、直接的な被害は大きくないという読みがあるでしょう。 

 

対内政策としての活用

朝鮮戦争際と同様、日本の米軍・自衛隊基地が前線基地となり、様々な戦争特需が期待され、長期間の景気停滞に喘ぐ日本経済にとっては絶好の景気刺激策となるでしょう。

また、現実的な安全保障上の事態が発生することで、憲法改正議論の後押しになると捉える動きもあるでしょう。

また、何らかの形で国際的なプレゼンスを示すことで、反日的な中国・韓国に対して牽制効果を期待する動きも出てくるでしょう。

 

今後のアクションプラン

基本的には、利害の方向性が一致する米国と歩調を合わせることになると思われます。

なお、実際に戦争状態となった場合、懸念されるのが、以下の4点です

  • 韓国における邦人脱出、
  • 難民の受け入れ
  • 国内のテロ対策
  • 自衛隊の参戦・米軍との協力体制

一部では、すでに法整備等が進められていますが、今後これらの分野で具体的な検討が進むでしょう

 

ロシアの思惑

ロシアは、意図も分かりにくく、ダークホース的な存在ですが、「米国への牽制」と、もしかしたら伝統的な「南下政策」がキーワードかもしれません。

 

米国への牽制

北朝鮮政策では、米国と対立する中国に肩入れすることで、米国の影響力を抑え、自国の影響力を高める戦略に出ています。

また、ウクライナ問題や原油価格の下落によりダメージを受けているロシアのエネルギー産業は、原油の大口顧客としての中国を支援する立場にあります。

 

南下政策

伝統的なロシアの南下政策もまた、大きな行動原理になっている可能性もあります。

北朝鮮を勢力下に置かないまでも、北朝鮮に親中政権ができ、日本海までも中国の庭になってしまうことは恐れるかもしれません。

 

今後のアクションプラン

ロシアは、北朝鮮が、米国や中国の勢力下にはいるのを避け、やんちゃなままでいて欲しいのが本音かもしれません。

その意味では、表面的には戦争回避を目指す中国と足並みをそろえ、裏では現政権を支える役割を果たし続けるでしょう。

実際、北朝鮮労働者の受け入れや、歴史的な交流を通じて、北朝鮮への影響力を拡大しつつありましたし、それを懸念した米国や中国は、外貨獲得の防止の名目で北朝鮮労働者の就労を禁止したのでしょう。

 

まとめ

ここに書いたのが、正しいのかどうかわからないが、国連や各国政府の発表などは「建前」の部分であり、裏にある「本音」を読み解いていくという姿勢と能力を磨いていく必要がある。

この「本音」には、各国政府、政権、企業等の対内的・対外的な意図があり、経済的なメリットや、政治的な打算が働いているのだろう。

 

ちなみに、国連の制裁決議だが、北朝鮮を追い詰めるのを回避するため、原油・石油製品の全面禁輸や高麗航空の資産凍結を回避したことは理解出来るが、金正恩委員長の資産凍結・渡航禁止や朝鮮人民軍の資産凍結が除外されたことは何故なのだろう。

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